ヒトの臓器再生に期待されるES細胞とその課題

拒絶反応のクリアが課題

動物界や植物界に所属する多細胞生物の体は、1個の受精卵が分化を繰り返すことにより作られています。成長した生物の細胞には特定の役割が与えられ、その役割に必要な遺伝子だけが働くようになります。

これに対して、分化する前の状態の細胞は、指示を受けると特定の細胞に分化できます。このような細胞を幹細胞といいます。幹細胞は、いろいろな細胞に分化できる能力と、自分自身を未分化の状態に保つ能力を持っています。

幹細胞は、どこで取られたによって種類が分けられます。初期胚から取り出されるのが胚性幹細胞(ES細胞)です。ES細胞は、体のどのような細胞にでも分化する能力を持った万能細胞です。成体にも幹細胞は存在しており、現在、骨髄、血液、角膜、網膜、皮膚、脳、心臓、肝臓などさまざまな組織に見つかっています。

ES細胞がどの細胞にも分化できるのに対し、成体幹細胞は分化能力が限られており、特定の組織にだけ分化します。例えば造血幹細胞は赤血球や白血球細胞に分化します。

幹細胞は、病気や怪我の治療への利用が期待されています(再生医療)。何にでも分化ができ、増殖のスピードも速いES細胞はいったんつくってしまえば、細胞培養でどんどん増殖させることができます。ES細胞は1981年にマウスで発見されました。マウスのES細胞からは、さまざまな部位に分化した細胞をつくることに成功しましたが、中・大型動物では特定の細胞へ分化させる技術は確立されていません。

ES細胞で特に期待されているのはヒトの臓器再生です。しかし、受精卵を犠牲にするという倫理的な問題と、他人の細胞を移植するために起こる拒絶反応というハードルがあります。

一方、成体幹細胞ならば、自分の体から取り出すこともできるので、拒絶反応を回避できます。ES細胞と比べて分化能力は限定されますが、特定の細胞に分化することがわかっているので治療にいかすことができます。実際に白血病の治療には骨髄幹細胞の移植が行われています。