特定の遺伝子を調べて発症リスクを知ることができます

倫理面での問題が指摘されています

変異が起こった遺伝子からつくられるタンパク質の働きが不完全になると、それが遺伝的疾患や生活習慣病へとつながります。そこで自分の遺伝子情報を予め調べておいて、将来どんな病気になる可能性があるのかを知り、病気の治療や予防に役立てようというのが遺伝子診断です。

遺伝子診断の最大の特徴は、病気が発症する前のそのリスクを知ることが可能だということです。がんや多くの生活習慣病には、疾患感受性遺伝子と生活習慣などの環境要因が複雑に関連しているので、自分の発症リスクを知っていれば、生活習慣の改善などによる予防にもつながります。

腫瘍から細胞を切り取り、遺伝子を調べることで、腫瘍の悪性or良性を診断することもできます。例えば大腸がんであれば、p53という遺伝子が変異していると、悪性になる可能性が高くなります。さらに、DCCという遺伝子が変異すると転移しやすくなります。このような変異が確認されたポリープは、将来、がんになる可能性が高いため、早期に切除したほうが賢明だと判断できます。

遺伝子診断は、治療から予防へという、医療の変革をもたらすものとして期待されていますが、現段階では不治の病になることを前もって知ってしまうことの是非や、特定の病気になる可能性があることで、就職試験等で差別を受ける、あるいは保険の加入を断られるのではないか、などの問題も指摘されています。普及には個人情報の管理システムや倫理問題など乗り越えるべき課題があります。

被験者やその家族の人生を左右するような、重大な結果をもたらす診断を行う場合には、事前および診断後のカウンセリングが必須です。遺伝診断のカウンセリングは、臨床検査技師や医師以外の専門知識を持った専任のスタッフが担当することが望ましいとされています。カウンセリングにおいては、被験者とのコミュニケーションが最も大切です。また、重篤な疾患が将来において予測される場合、ソーシャルワーカーや薬剤師などのスタッフがチーム医療を行う必要があるでしょう。

生まれる前の子供に対する遺伝子診断でも是非が問われています。子宮の中の胎児でも、母体から羊水を採取し、中に含まれる胎児の細胞を調べる方法などで遺伝子診断は可能です(出生前診断)。

出生前診断で異常が発見されて、中絶を行うのは倫理的な問題があります。受精卵が子宮に着床する前に検査する着床前診断であれば、この問題を回避できるという考え方もあります。着床前診断では体外受精させた受精卵が6~8個に分割したときに、細胞1つをとって遺伝子を検査します。