患者の遺伝子から症状や体質を見極め、薬を投与

未来の医薬品に期待がかかります

私たちが体調を崩して、「風邪かな?」と思ったら、薬局などで市販されている万人に効く風邪薬を飲むのが一般的な治療です。しかし、ヒトによって風の原因となるウイルスの種類や、薬を服用した際の副作用の程度は異なります。

全員に同じ薬を投与した場合、非常に効果がある人もいれば、ほとんど効果が無いばかりか、副作用だけが出現する人もいます。そこで、患者一人一人の症状や体質にあわせて治療を目指そうというのが近年注目を集めているオーダーメイド医療です。

個々人に合わせた治療という概念は以前からありましたが、多くの場合は、さまざまな種類の薬を投与して、その経過を見ながら各自に最適な薬を見つけるという、手間のかかる手法がとられていました。しかし最近の遺伝子研究の成果を活用すれば、効率よくオーダーメイド医療を実現できるようになりました。

オーダーメイド医療は、まず患者の遺伝子を調べることから始まります。例えば高血圧の治療であっても、もともと高血圧になりやすい遺伝子を持っている患者とそうでない患者では、投薬する薬の種類や量が異なってきます。通り一辺倒に降圧薬を塩ゆするよりも、高血圧になった背景が分かった上で薬を選択するほうが効果的です。

また、オーダーメイド医療に使用する薬は臨床試験の段階で、さまざまな遺伝子に対して、どのような副作用が出るのか、調べられています。そのため、副作用がより少ない薬を選択することができるのです。

例えば、日本人の死因の第1となっている「がん」では、「がんゲノム医療」が挙げられます。これはがん細胞の100種類以上ある遺伝子を調べ、異常が起きている細胞の変異にあわせて抗がん剤を選択する治療法です。

従来の治療は、肺がん、大腸がん、肝臓がんなど「臓器別」に抗がん剤を選択していましたが、副作用が強く効果も芳しくないということもありました。

オーダーメイド医療であるがんゲノム医療では、臓器ごとではなく患者一人一人のがん細胞の特徴にマッチした抗がん剤を選択することができるので、副作用を抑えながらもより高い効果を期待できるというメリットがあります。

オーダーメイド医療の分野で注目されているのが、SNP(スニップ:一塩基多型)です。SNPは遺伝子の中で塩基が一つだけ別のものに置換されているものを指します。ヒトのDNAでは1000塩基に1つぐらいの割合で発見されます。このSNPが体質を左右することがあります。

例えばアルコールに強いかどうかはSNPで決まってきます。アルデヒド脱水素酵素遺伝子(ALDH)の塩基が一つ違うだけで、酔いの原因であるアセトアルデヒドを分解する酵素の働きが弱くなって、アルコールに弱い体質になってしまいます。

現在、特定の病気に罹りやすい、特定の薬で副作用が出やすいなど、病気に関わる体質を発現させるSNPの研究が盛んに行われています。SNPの情報が収集されることで、患者1人1人に対して、効果的にオーダーメイド医療を行なうことができるのです。