科学的な根拠に基づいた薬を効率的に開発できます

副作用のない医薬品を患者ごとに処方

ヒトゲノム情報をもとに得られた遺伝子の塩基配列や、タンパク質の構造機能解析の結果を利用することで、効果の高い医薬品を効率的に開発する手法のことを「ゲノム創薬」といいます。

ゲノム(genome)とは、生物固有の遺伝子の情報のセットのことで、遺伝子(gene)と染色体(chromosome)の二つの単語が合わさった造語です。

ヒトの細胞には染色体の集まりがありますが、それは約30億個のDNA塩基配列で構成され、これらがヒトの全遺伝子情報を伝えるヒトゲノムとなっています。

ヒトの遺伝子情報の全てを示すものですので、このヒトゲノムを解析することができれば、その人がどのような病気にかかりやすいのか、どんな薬が効果を示しやすいのかがわかることになります。

そこで、ヒトのすべての遺伝情報であるヒトゲノム解読が日米欧の官学が参画した「ヒトゲノム解析計画」とセレラ・ジェノミクス社によって開始されました。そして、2000年にヒトの染色体の塩基配列の前者が85%、後者が99%が明らかになったと発表されました。これにより、ゲノム創薬の実現性は大きく高まりました。

従来の薬は、薬効成分を見つけるために約10万もの候補物質をしらみつぶしで実験して、最も効果の高いものを選択する方法がとられてきました。すなわち、多くの薬は経験則で作られており、場合によっては科学的根拠が乏しい場合も効果があればよしとするものでした。

一方、ゲノム創薬は遺伝子の機能が判明していれば、薬効成分としての候補物質を絞り込むことができます。つまり、科学的根拠に基づいた効果的な薬を効率的に開発することが期待できます。

ヒトゲノム解析の進展にあわせて、アルツハイマー等の根治困難な病気や、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病の多くが遺伝子の異常や機能不全が原因で起こることがわかってきました。

したがって、ゲノム創薬が実現すれば各種病気の原因遺伝子を特定し、その発現を抑える医薬品を個人の体質に合わせて投与することが可能となります。すなわち、個人の体質に最適な副作用のない医薬品を患者さんごとに処方できることになります。