ゲノム創薬でスクリーニングにかかる時間を大幅に縮小

世界中の製薬会社で研究が進む

私たちが病気になったときにお世話になる医薬品は、実際に商品として市場に出るまでには莫大な時間、コスト、労力が費やされています。普通は、ある病気に対して効能がある植物や微生物、化学物質を詳細に研究し、同じ効能をもつ物質を科学的に合成して薬にします。

しかし、合成されたものが、そのまますぐに薬として流通することはありません。これはあくまでも薬の候補です。医薬品として人間に安全に投与でき、効果があるものかどうかを調べるために、薬の候補は何段階ものテスト(スクリーニング)を受けなければなりません。

人体に使えるかどうかの試験を通過するためのハードルはとても高く、数万から数十万に及ぶ候補の中から薬が一つ誕生すればよいとされるほどです。膨大な数の合成物を一つ一つスクリーニングするので、それに要する時間は莫大です。

しかし、遺伝子研究の恩恵で、従来とは違った考え方でつくれる薬を手に入れることができるようになってきました。遺伝子の塩基配列の情報を基にして、薬を作る方法、いわゆるゲノム創薬です。ゲノム創薬はスクリーニングにかかる時間を大幅に縮小でき、効果が高く、副作用が少ない薬を作ることができます。

一般的なゲノム創薬は、遺伝子変異によって、酵素などの不必要なタンパク質がつくられることで発症する病気に対する治療薬です。まず、原因となっている遺伝子(ターゲット遺伝子)を特定し、それをつくるタンパク質の働きを無効にする(遺伝子の働きを抑える)薬を作ります。

このためには、どのタンパク質に対して、どんな物質を使えばターゲット遺伝子が働かなくなるかを調べなければなりません。まず、ターゲット遺伝子の塩基配列に基づいて、その遺伝子からつくられるタンパク質の立体構造をコンピューター上で描きます。

そして、そのタンパク質の特定部位に入り込み、機能を失わせる化学物質を新たに設計したり、既に存在する物質の中から探し出します。次に、完成した薬のターゲット以外の遺伝子への影響をテストします。こうれは遺伝子レベルで行うため、従来の臨床試験や動物実験のスクリーニング手順を大幅に縮小できます。現在、世界中の製薬会社や研究機関がゲノム創薬の研究を盛んに行っています。